偽王子と、甘い偽恋
 私の顔を両手で持ち上げると、涙で濡れた頬に優しく口付ける。
 どこまでも甘い、そんな彼の仕草。

 臣くんが好き。

 その気持ちが溢れだして、私もたまらなく臣くんの唇に、自分のそれを重ね合わせた。

 会いたかった。離れたくない。愛おしい。

 この感情が恋で、愛なのだと、生まれて初めて知った。


「迎えに来るの、遅くなった」

「…本当に、遅いよ」


 不満を零すくせに、心の中は嬉しくて仕方がない。
 肝心な時に、どうしても素直になれない。
 いい加減、可愛らしく「好き」と言えたらいいのに。

 先ほどまであんなに溢れていた情熱が、急に怖気づいて引っ込んでしまった。


「さっきまで電話で素直だったのに」


 意地悪くクスッと笑みをこぼす臣くんの言葉に、顔がカッと熱くなる。


「…臣くん」

「ん?」


 私の顔を覗き込んで、そう優しく問いかけてくる。

 誰かに気持ちを伝えるのが、これほど怖くて、緊張するものだなんて知らなかった。

 不安で見上げると、彼は少し首をかしげて私の反応を待っている。


「好きなの」


 必死にその言葉をぶつけると、臣くんは一瞬だけ目を見開いた。
 それから愛おしそうに微笑み、私の目元に優しく口付けた。

 ようやく言えた。大切で、愛おしいあなたに、一番伝えたかった言葉。


「俺のが好きに決まってんだろ」


 そう言い放つと、再び唇を重ね合わせ、深く、深くキスを交わす。

 離さないという意思を示すように私を強く抱きしめ、お互いの熱をぶつけ合う。

 好き。大好き。

 ありったけの想いをすべて伝えるように、私は彼からのキスに、何度も応えた。
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