偽王子と、甘い偽恋
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 キスを交わしながらベッドに運ばれ、久しぶりに二人で甘い雰囲気に…、なるところだった。

 その瞬間、いろいろと聞きたいことが頭に浮かび、ハッとして彼の胸元をぐっと押し返す。


「ちょっとまてぇい!」

「んだよ。萎えんな」

「萎えてもいい!今は言いたいこと、聞きたいこと山ほどある!」


 そうまくし立てると、臣くんはだるそうにベッドに腰を下ろし、ネクタイを緩めた。

 そんな態度を見せられても、ここで逃すわけにはいかない。


「ねぇ、千早グループの御曹司ってどういうこと!?なんでカフェで働いてたの!?」

「別に。跡継ぎになんてなるつもりなかったよ。だるいし、面倒だし」

「じゃあ、なんで?」

「御曹司って肩書きあるほうが王子っぽくね?」


 あ、馬鹿なんだ。

 あまりの回答に、思わず呆然とした。

 この男も、恋をするとここまで浮かれて馬鹿になるのかと。

 そんな私の様子を見て、臣くんは不機嫌そうに私の頬をつまんでくる。


「なんなんだよ、そのリアクションはよ」

「いててっ」


 臣くんは少し照れくさそうにした後、つまんでいた指を離し、今度はその頬を優しく撫でた。


「少しでも、りりかの理想の男になりたかったんだよ。俺は、逃げ続けてきて、どうしてもりりかの理想には程遠かったし」


 消え入りそうな小さな声でそう漏らすと、彼の指先が私の手に移った。

 理想なんて、そんなのもうどうだってよかった。

 たとえ最低で理想から程遠くても、私は千早 臣という一人の男性を好きになった。

 御曹司なんて肩書きがなかったとしても、私は間違いなく彼に惹かれている。


「…初めてだったよ。こんな風に誰かのために変わりたいって思ったのは」


 彼の言葉に胸が締め付けられた。
 私の為に変わろうとしてくれた事実が、嬉しくて。
 それでも、私は…─────。


「変わらなくても、好きになってた」


 真っ直ぐにそう返すと、臣くんは軽く目を見開いた後、少し困ったような表情をして笑った。
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