偽王子と、甘い偽恋
「なあ」

「何?」


 そう問いかけると、臣くんはスーツのジャケットから一枚のカードを取り出した。それを、私の前に差し出す。

 その正体がわからなくて首をかしげていると、「これから一緒に住むつもりの、マンションの部屋の鍵」という言葉が聞こえてきた。

 その言葉に目を見開き、臣くんを凝視する。

 これから一緒に住むつもりの、マンションの部屋の鍵?
 なんだ、そのとんでもないパワーワードは。


「え?聞き間違い?"これから一緒に住むつもりの、マンションの部屋の鍵"って言った?」

「一言一句合ってんじゃねぇかよ」


 あ、合ってた。聞き間違いかと思った。

 差し出されたカードキーを見つめ、そっと受け取る。


「一応場所は、りりかが会社から通いやすい場所にしたつもり」

「…うん」


 感極まって、何も言葉が出てこなかった。

 また一緒に住めるんだと思ったら、ただただ嬉しくて。

 目頭が熱くなり、視界が滲む。


「しばらく休みになったから引っ越し手伝うよ」

「そう言えばさ、婚約者の話とかないの?」

「何、急に」

「結婚の予定はないって言ったとき、臣くんのお父さんが顔顰めてたから、もしかしてあったのを、臣くんが強引に無いって言ったんじゃないかなって」


 そう指摘すると、臣くんはあからさまに気まずそうな表情を浮かべた。
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