初恋が始まるとき。
 それから大型連休手前。忙しさはようやく落ち着き、いつも通りの日常に戻りつつあった。

 あれからも時々本田さんと渋谷さんの姿は見たが、私自身避けるようになった。避けられないのが、本田さんの存在であれからも顔を合わせていたのだけど、他愛のない話を無心でしている分には何も問題がなかった。


「そういえば断られたんです」

「断られたって…」

「ゴールデンウイークのお出かけ!予定詰まってるって…。そりゃあモテるから埋まるでしょうけど…」


 そう不服そうに言っているのを聞いてどこか安堵している自分がいた。関係のないことなのに、いまだに渋谷さんのすることに反応してしまう私がいる。

 何かを話す本田さんに何も反応は出来ず、周りの音は遮断されて少し考えこんだ。女遊びの激しかった、来る者拒まずなあの人が本田さんの誘いを断ったのはなぜか。

 そう言えば最後に女性遊びを聞いたり見たのはいつだった?思い出そうとしても随分前に感じる。あの人が変わった事実に気付かなくて、どうして変わったのかも当然知らない。あの人を見ているつもりになって、何も知らなかったな、と思った。


「佐々木さん?」

「あ、すみません。聞いてなかった」

「体調悪いんですか?大丈夫ですか?」

「大丈夫です。はい、これ精算書」


 心配そうな表情で私の顔を覗き込む本田さんに書類を渡し、パソコンモニターの方を見る。


「ありがとうございます!また連休明けお願いします!」

「こちらこそ」


 そう挨拶を交わし、この場を離れていく。一息吐いてまた私の思考は渋谷さんに奪われていくことを実感した。
< 105 / 132 >

この作品をシェア

pagetop