初恋が始まるとき。
「なあ、知ってどう思った?」

「どう…って、私には関係無いでしょ」

「本当に関係無いって思ってんの?」


 その問いにまた言葉に詰まったところで、社員の声が聞こえてくる。この現場を見られたら変な噂になってしまう。手を振り払おうとすると渋谷さんは「来て」と言って、私の手首を引っ張ったままどこかに歩き出した。


「ちょっと!」


 抵抗する私をものともせずそのまま歩いて行く。

 珍しく怒ったような態度の渋谷さんに困惑した。
 どうしてそんなに怒るのか分からないから。

 そのまま非常階段の方に来ると両手首を掴まれ壁に押し付けられる。
 背中に痛みを感じ、顔を歪めると渋谷さんは顔の距離を近付けてくる。


「なあ、本当に何も思わなかったわけ?あの子が俺の事好きって知って」

「私に何かを思う権利も資格も無いでしょ。何を怒ってるんですか!」

「嫉妬は?ほんの少しも嫌って思わなかった?」


 その問いに息を飲む。私の心を見透かしたような目でこちらを見て、気持ちを少しずつ言語化していく渋谷さん。

 認めてしまったらどう思う?面倒だと思う?都合がいいと思う?

 そんな事を考えながら何も答えられずにいると手首から手を離し、私の頬に手を添える。

 その間2人で見つめ合うと、何も答えてないのにほんの少し嬉しそうな顔なんかしちゃって。こっちはずっとモヤモヤしてるのに。

 この間抱き合ってたのは何だったんだとか、何でそのくせ私には特別扱いしてくるんだとか、大事な言葉はいつも何も無い。
< 107 / 132 >

この作品をシェア

pagetop