初恋が始まるとき。
Episode11
 その日の夜、母に帰らないことだけを伝え、渋谷さんからの連絡で家を飛び出すと、車の前に立っている渋谷さんの姿。

 私の姿を見るなり少し微笑み、軽く腕を広げてくる。


「…いや、抱き着くわけないし。自分の家の外ですよ。何考えてるんですか」

「冷静になるの早すぎだろ」


 渋谷さんはそっと腕を下ろして、私の鞄をそっと取り上げる。
 それから後部座席に荷物を乗せ、助手席のドアを開けてくれた。

 そんな行動にくすぐったくなりながらも「ありがとうございます」とお礼を言って乗り込む。渋谷さんはその後、そっとドアを閉めて運転席の方へと乗り込んだ。

 久しぶりに会ったわけでもない。連休前まで会っていたのに、久し振りに会った好きな人の様に気まずさと照れくささがある。

 車の中は妙な沈黙が漂っていて、隣の渋谷さんを見るとひじ掛けに肘を置き顎の下に指の背を当て、片手でハンドルを握って運転している。そんな姿を見るだけでも格好良いと感じてしまうのは、恋の影響だろうか。


「…どこに行くんですか」

「俺の家」

「え、家?」

「どっか店予約してと思ったけど、連休中で空いてる店なんてねぇし。だから、オードブルと酒買っといたから今夜は俺の家で過ごそ」


 事情は分かるけれど今は家で2人は避けたかったかもしれない。緊張しているのもあって、今は音が多くて気がまぎれるような場所で、緊張をほぐしたかった。

 代案を用意できるわけでもないし、既にオードブルとアルコールを用意してくれているし、大人しく諦めるしかない。そもそも嫌なわけでは無いのだから、緊張はアルコールで解して耐える。
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