初恋が始まるとき。
「…本田さんはよかったんですか」


 軽い話題のつもりでそうチョイスしたのだけど、渋谷さんは思い切り咳き込む。私としてはそんなに咳き込むような話題だとは思っていなかった。聞きたかったことであり、どうなっていたのかなんて興味本位だ。

 渋谷さんはハイボールを流し込むと、気を落ち着かせている。絶対落ち着かせるための飲み物としてハイボールは不正解だと思うが。


「何で本田さん」

「可愛いと思いましたよね?」

「いや、思ってない」

「本当は?」

「愛嬌はあるなと思った」

「へぇ~」

「クソ気まずい!」


 彼氏の浮気を詰めている様な気分ってこんな感じなのだろうか。付き合っていないし、渋谷さんが本田さんに対してどんな気持ちを抱こうが何も言えないのは理解しているが、やっぱり可愛いとかとは思っては欲しくない。

 単純に私が勝ち目も無く不安になるから。ここで私の方が可愛いとか甘い言葉を期待しているわけではないけど、普通だよって回答を求めてしまうのは我儘だろうか。


「…妬いてんの?」

「違います。私は本田さんの気持ちを知っているので、渋谷さんはどうなのかなと思っただけです」

「素直になれよ」

「妬きました、ごめんなさい」


 もうここにきて自分の気持ちを隠す事も出来ない。気まずさを感じながらも認めると渋谷さんは「へ~」とにやにやしている。

 100回くらい往復ビンタしてやりたいくらいムカつくにやけ顔だ。
< 120 / 132 >

この作品をシェア

pagetop