初恋が始まるとき。
「…本田さんは顔が良ければ俺じゃなくてもいいんだよ」

「…自分で顔が良いを何回も連呼しないでください」

「事実だしな」

「原型なくすぞ」


 そんないつも通りの会話をしながらも、いろいろと降りてきた情報網に困惑していた。本田さんはてっきり元気な王道ヒロインみたいな立場だと勝手に思い込んでいたのだけれど、そうではなかったのか。

 顔が良い男性が好きなだけの、元気な女性社員…?

 それならば渋谷さんが狙われる理由はよくわかるが、本当にそれだけだったのかも疑わしくなってくる。だけど、本田さんと深い話が出来る程、仲がいいわけでもないので、何も確認はできない。


「てか、見てたんだな。抱き着かれてたの」

「…会社帰りだったんです。見るつもりはありませんでした」

「何も無いって信じてくれる?」


 そう問われ渋谷さんを見ると、顔の横にかかった髪を手で耳の方まで持って行かれ、そのまま耳に掛けられ、その手で頬に触れてくる。

 珍しく真剣で不安そうな表情をしている。私が渋谷さんの気持ちを疑う事を怯えている様なそんな表情。

 私が渋谷さんにこんな表情をさせているのだと思えば、嬉しかった。乱されているのは私だけじゃない、この人もなんだって。

 思わず笑みを零すと「気分良さそうね」と私の顔を覗き込む。
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