初恋が始まるとき。
「今日、楽しみにしてる」

「…はい」


 耳元で聞こえてきた声にそう返事をすると軽く頬に唇が当たり、ビクッと身体を揺らす。

 既に背を向け歩き出している瑛都に「ここは職場!仕事しろ!」と言い放つと、軽く振り返りベッと舌を見せてそれから笑い、手を振っていた。

 散々無視をした私への仕返しのつもりなのか、とんでもないことをして戻っていった。周りには幸い見られていなかった様で少し安堵するが、油断も隙も無い。

 とはいえ、私も楽しみにしてしまっているのは事実で、瑛都との予定があるだけで、いつもより仕事が捗る気がする。絶対に定時で帰宅して、一緒にいる時間を少しでも長く、とそう言う気持ちになるから。

 恋をすると周りの事も頑張れるようになるなんて知らなかった。

 誰にも気付かれないように、思わず口元に笑みが浮かぶ。

 今までも不幸な人生だったわけじゃない。
 むしろ幸せに過ごしていたのだけれど、きっと今の私が一番幸せで、そうさせているのは全て瑛都だ。

 恋をしないなんて散々強がったけれど、今はこの恋を途切れさせる事無くずっと君を想っていたい。



『初恋がはじまるとき。』
End.
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