初恋が始まるとき。
 こんな男の相手をしていても仕事は終わってくれないし、むしろ時間の無駄だ。一応先輩だからと手を止めて話を聞いていたが、この話に仕事以上の価値はない。

 さっさと仕事を終わらせてコンビニエンスストアで軽いつまみと缶ビールを買って、家で温かいご飯が用意されているはずだから早く食べて、晩酌をしてから気持ちよく眠りたい。

 そんな気持ちで仕事を必死にこなしていると、無視をされて余程気が悪かったのか、強引に頬を手で寄せられ顔を渋谷さんの方に向けられると、そのまま唇が重なり合った。

 この時何が起きたのかわからず、目を見開いて至近距離にある渋谷さんの顔を見ていた。

 これがキスだというのを理解するまでに時間が掛かったが、わかった瞬間身体を思い切り突き放して唇を拭った。

 薄紅色のリップが取れるとか、そういうのは気にもしない。

 今は渋谷さんの唇の感触を早く消し去りたくて、痛みも気にせず擦り拭う。感触を消すためには痛いくらいの方がよくて、目の前の男を睨みつける。

 渋谷さんは口元に薄ら笑いを浮かべている。

 嫌いな男にファーストキスを会社で奪われた。
 当然人生で大事だとか、そんな風には思ってはいないけれど、こんな男とこんなことになりたくはなかった。
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