初恋が始まるとき。
「今度は先輩騙して合コンまで呼び出すとか絶対やめてくれます?」

「じゃあ避けんなよ」

「……」


 それとこれは話が別だろと言いたかったのを何とか抑える。

 そもそもこの男があの日キスなんてしなければ…。

 あの日の事を思い出すと顔が熱くなってきて慌てて逸らす。


「は?何急に」


 後ろから声が聞こえてくるが振り向けない。

 あの日から今日まで怒りで忘れていたけれど、よくよく考えればファーストキスの相手なんだった…と思い出し、突然羞恥心に襲われた。

 無意識に口を手で抑えていると、後ろから突然抱き締められ顔を覗き込まれ、身体が固まる。


「な、ちょっと…、外なんですけど!」

「今度は2人で会お」


 心地の良い低音の声が耳元で聞こえ、抵抗しようと力を入れていたのが一気に緩む。

 渋谷さんの方を見ると至近距離で目が合って、もう少しどちらかが距離を詰めたら唇が重なりそうなそんな距離感。

 いつもはどうにかして突き飛ばそうとするのに、今日だけは、この瞬間だけは離れられなかった。


「なあ、聞いてんの?」

「…いや、行きませんけど」

「はあ?何で」

「てか、まだキスの件謝られてませんし、ばりばり怒ってますので」

「何で謝んなきゃいけねぇの?」

「あ?」


 ついには開き直ったんだが、この男。

 唖然として渋谷さんを見ていると、渋谷さんは楽しそうに笑うだけ。
 

「悪いと思ってねぇし。てか優菜ちゃんのいろんな初めて誰かにあげる気ねぇし」

「何言ってるんですか、まじで」

「反省するくらいならそもそもキスなんかしねぇよ」


 そう言ってどさくさに紛れて頬にキスをされ、苛立ちながら彼の顔をグイッと手で押した。

 全部自分基準で考えている自己中男にちょっとした仕返しだ。
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