初恋が始まるとき。
「いたっ」

「合意なしに奪っておいて開き直るのおやめくださいね」

「照れてたくせに」

「殴られたいなら殴りますけど」

「ごめんって」


 ようやく離れてくれた渋谷さんの顔を見ると、まだ口元には笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 家の前でこんなことをして、うちの家族に見られたらたまったものではない。


「来週土曜、デート行こ」


 何度もしてくるデートの誘いにいい加減うんざりする。

 どうしてこの人は私なんかにこんなに関わりたがるのか。

 さっき合コンで言われたとおり、面白い女でも可愛げのある女でもない。

 女なら誰でもいいの?それとも自分に振り向かない女がいるのが気に食わないだけ?渋谷さんの考える事が、全然わからない。

 デートに行って、この人と過ごせば少しはわかるんじゃないかなんて、そんな気がして「…いいですよ」なんて答えた。


「うわ、まじ?」

「…行きます、しつこいんで」

「やった」


 そう言って笑う渋谷さんが少し可愛らしく見えた。
 この男が可愛らしいわけもないのに。


「じゃあ、気を付けて帰ってください」

「また連絡する」

「…はい」

「先入んな。見てから行く」


 そう言われ頷き大人しくドアの方に向かった。
 鞄から鍵を取り出して回し、ドアを開けてからまた渋谷さんの方を見る。

 振り向いた私に手を振り「おやすみ」と言う渋谷さんに「…おやすみなさい」と返してから家の中に入りドアを閉めた。

 本当に何を考えているのかわからない。
 何のメリットも無いのに、ここまで私に優しくする意味も…。

 そんな渋谷さんが気になって仕方なくて、知らなくてもいいはずなのに知りたいと思った。

 自分でも気付かない内に、少しずつ渋谷さんに引き込まれてしまっている。

 嫌いなはずなのに、かなり矛盾するような自分の行動に困惑して、一番理解が追い付かないのは自分の気持ちだ。
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