初恋が始まるとき。
 時間が少しずつ迫ってくると、何だかんだきちんとそれなりに準備をした。

 もちろんデートに浮かれたなんて可愛い理由ではない。

 気は今も乗らないし、今日のことがあって渋谷さんとどう変わるのかなんて考えたら怖い。

 関係性がただの先輩と後輩ではなくなったら…?
 最近の私は前ほど、渋谷さんを絶対に好きにならないとは言い切れなかった。

 嫌いなものは嫌いなままだと思っていた自分が、そうではないのかもと思ったのは、最近どうも渋谷さんのことを思い出す頻度が増え、飲み会の後の夜のことを特に思い出した。

 抱きしめられた時の体温とか、耳元で聞こえる程よく低くて心地良い声とか、飲み会の後に意外と家まで送って中に入るまで見守ってくれていたあたり紳士なところもあるんだとか。

 最低最悪な部分を何度も見ているし聞いているのに、私が渋谷さんを悪く捉えすぎてしまっているような気もしてきた。

 溜息を吐きながら念入りに化粧をする。
 この化粧は渋谷さんのためじゃない。

 結愛さんに言われた言葉を聞いて守っているだけだ。


『渋谷とのデートが憂鬱に感じてたとしても、おしゃれすると気分が上がると思うのよね。おしゃれって自分が最強になれる気がするし、渋谷がなんか言ってきたら『あんたの為じゃないから自惚れんな』って言ってやればいいわよ』


 結愛さんの言う通りかもと思うのに、今日は私の心はどういう風に思っているのか自分でもわからない。

 本当に憂鬱な気分を少しでも晴らしたいだけ?
 それとも、渋谷さんに可愛く思われたい?

 そんなはず、ないのに。
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