初恋が始まるとき。
 約束の11時になると≪着いた≫と連絡を受け、1階に下りる。

 玄関で座り込みながらブーツを履いて靴ひもを結んでいた。

 そんな私を後ろから心配そうに見ている母と、好奇心丸出しの父。


「挨拶した方がいい?」

「八倒すよ」


 父に向かって言う言葉ではないのは重々承知なのだが、思わず本音が出た。

 そんな私に怒るでもなく笑っているだけの父。本当に腹が立つ。


「じゃあ、行ってくるから」

「行ってらっしゃい~」


 両親に見守られながら異性との初デートに向かう御年23歳。
 かなり恥ずかしいし、23歳の娘を茶化すなと言いたい。

 溜息を吐きながら外に出ると前に黒のセダンタイプの車が止まっていてそこに寄りかかるのは普段スーツ姿で見慣れた渋谷さん。

 私服姿は見慣れないから新鮮で、また顔がいいから私服姿がそれを際立たせることが少し腹が立つ。

 黒のハイネックのセーターにダークブラウンのロングコートが似合いすぎている。


「おはよ。かわいいじゃん」

「…お世辞どうも」

「態度が可愛くねぇな。ほら、乗って」


 そう言いながら助手席のドアを開けてくれる。
 これに乗り込んでしまえば、きっとこの人からは逃げられないし、何かが始まってしまう。

 本当にいいのか自問自答するも、そっと助手席に乗り込む。

 乗ったのを確認すると、そっと助手席のドアは閉じられた。
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