初恋が始まるとき。
 車に乗り込んでから数分。
 行先も分からないまま心地の良い揺れに身を預けながら窓の外を見ていた。

 住宅街を抜けて街中を走っていて、そこで運転している渋谷さんの姿をちらっと見る。

 運転しながら器用に穏やかな表情を浮かべて話していて、その姿がどこか余裕もあって、悔しいことに運転している姿は格好いいと感じる。

 運転できる男性が格好いいと大学時代よく耳にしたが、今ではその気持ちが少しわかるかもしれない。

 そんなことを考えながら渋谷さんの方をちらっと見ると、渋谷さんもこちらを見て「何?見とれた?」なんて話しかけてくる。


「どうやったら渋谷さんに見惚れるんですか?」

「何言ってんだよ。数々の女をこの見た目で惹きつけてきたっての」

「ははは」

「乾いた笑いやめれる?」


 そんなくだらない会話をしながら、行先も分からず車はどんどん進んでいく。


「どこに向かってるんですかこれは」

「先腹減らね?何食べたい?」

「昼食って概念休日にもあったんですね?」

「ごめん、何言ってんの?」


 普段意味わからないことたくさん言うくせにこういう時だけ、まともぶりやがってと、じとっとした視線を渋谷さんに向けると首を傾げていた。

 なんだか渋谷さんにまともにツッコまれると悔しい。
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