初恋が始まるとき。
 途中カフェに入り、渋谷さんは向かいの席に座った。

 注文を済ませると、机に腕を乗せこちらを見てくる。


「…何ですか」

「可愛いなと思って。そんなオシャレしてきてくれたんだ?」

「…久しぶりに外に出るから着飾っただけです」


 結愛の姉貴…、私には無理です。

 あんたの為にオシャレして来たんじゃないってその言葉ですら、ツンデレとして受け取られるのでは、と考え過ぎた結果、余計にツンデレ発言っぽくなってしまった。

 そんなつもりは一切ないのだけど、可愛いって言葉に照れてしまった自分がいるのも事実だ。そんな事が悔しい。

 この男からしたら挨拶の様なもので意味なんて無いと言うのに。

 私の少し照れた様な態度に渋谷さんが笑っているのが分かる。


「何で来てくれたわけ?」

「ただの気まぐれです」

「へー、気まぐれ、ねぇ」


 何か意味を含ませたような言い方に何も言わず目の前の水を飲む。

 いつもはこんな探り合いや駆け引きの様なやりとりが日常茶飯事なはずなのに今日だけはまったく落ち着かない。


「渋谷さんって昼から出掛ける人なんですね」

「他の女の子にはしないよ」

「…は?何で?」

「面倒臭いじゃん。好きでもない女の子と昼から健全なデートをするなんて」


 だめだ、深く考えるな私。この男の言葉に乗せられたら終わりだ。

 そう気を引き締めて窓の外を見て落ち着かせる。
 その間もこの男は余裕そうにクスッと笑みを零すだけ。
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