初恋が始まるとき。
「集めてるんです、好きで」

「へー、取ってやろうか?」

「ええ、取れるんですか?」

「ちなみに自信はないけど、金はあるから取れるまでやる」

「うわ、格好よく取れるって言っとけばいいのに」

「取れるまでやるからいつかは取れるんじゃん?」


 渋谷さんの言い方に少し笑うともう既に硬貨をUFOキャッチャーに突っ込んでいて真剣な表情で中のうさぎのぬいぐるみを見ていた。

 普段笑っていたり、どこか人を揶揄う表情とかしか見たことがなかったけれど、私のぬいぐるみを取るだけの為に真剣な表情をしているのを見ていると、ほんの少しだけ格好いいと思った。

 1回目で持ち上がり少し近くまで寄るもまだ出口に来る様子はなく器用に持つ部分を調整しながら近づけていく。

 時折持ち上がったのがボンっと雑に落とされて遠のく時もあるけれど、何度も挑戦してくれていた。

 一生懸命取ろうとしてくれているこの人の隣でぬいぐるみよりも渋谷さんの方を無意識に見ていた。

 私の為にこんなことでも一生懸命になってくれるんだ、なんて少し既に騙されかけている私もいて変な感じがする。

 見守っていると10回を超えたあたりで「取れた」と柔らかくて黄色のうさぎを拾い上げ渡され、それを手で受け止める。


「わ、10回くらいでとれたのすごいですね!私たまに20回でも30回でも粘るのに…。ありがとうございます」

「いいってことよ。毎晩抱いて寝てな、俺だと思って」

「…1000円返すんで川に投げ捨てていいですか?」

「捨てんなよ」


 気持ち悪いこと言うなと言わなかっただけまだ優しい方だろ。
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