初恋が始まるとき。
 私の後に遅れてきた渋谷さんがラクガキブースで先に座っていた私の隣に座りペンを掴む。


「痛すぎてラクガキとかどうでもいいわ」

「頭が冷えたようでなにより」

「優菜ちゃんね、どうすんの?俺が逆上して熱くなっちゃうタイプだったら」

「その時はその時でこの辺人多いんで何とかなったでしょうね」

「計算できる子のようでなにより」


 そう言いながらラクガキタイムに入るも特に書くこともない。いじるところもない。

 画面の中の渋谷さんの顔を見ると、楽しそうで思わず少し笑ってしまう。

 顔は別人ともそうじゃないとも言い切れない感じ。


「実物の方が可愛いな」


 渋谷さんがそう呟くのを聞いて隣を見ると、画面の方を見ている。


「え?」

「生で見てた方が可愛いなって言った」


 何でこんなことを恥ずかしがることもなく言えるのか。

 言い慣れたらこんな何でもないように言えるわけ?

 言い慣れてるってわかってるのに、言葉と、いちいち顔が熱くなる自分に羞恥心がこみあげてくる。

 自分だけじゃないってわかってるのに、こんな反応をさせられることが悔しい。

 渋谷さんと反対方向を向くと「優菜ちゃん?」と声を掛けられる。


「…何ですか」

「何でこっちみねぇの?」

「くしゃみ出そうなんです」

「へぇ」


 そんな私の誤魔化しに笑うと気にもせず、顔を渋谷さんの方に向けさせられた。

 自分でもわかってる。きっと顔が赤くなっていることなんて。
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