初恋が始まるとき。
 そう考えている間にも金曜日が来た。

 その間ずっと渋谷さんの攻撃は続いていた。

 誘われた翌日の火曜日。


『何か食いたいのある?いい店何個か候補出してんだよね』


 私行くって返事しましたっけ?と聞きたくなる程のスムーズな会話。

 その翌日の水曜日。


『今週忙しい?金曜日残業すんなよ』


 もう行くって決まってんの?これって言いたくなるばりの言い方。

 その翌日の木曜日。


『明日イタリアンとかどう?それかガッツリ焼肉とかがいい?』


 もはやツッコむ気も起きない渋谷さんの言葉。

 金曜日に至ってはお迎えにすら来ていた。


「よっしゃ。行こ」

「ちょっとまてぇい!」


 手を取ろうとして来る渋谷さんの手を思い切り払ってしまった。

 考えといてとか言いながら、行くことに自然とさせているこの男恐ろしすぎる。

 怯えている私を見て少し笑っている渋谷さん。


「これのために昼抜いた」

「行かないって言うかもしれないじゃないですか!」

「え、でも行くじゃん?」

「もう返事したみたいな空気感やめてくださいよ!」


 気付いた時には詐欺にかかってしまっている様な感覚に思わず震えが止まらない。

 別にここまで毎日しつこくされなくても、今日の食事には元々応えようと思っていたのに、そこまでされるとやりづらい。

 渋谷さんの方を見ると首を傾げていて、私はそれを溜息を吐いて見る。


「…行きますよ。ちなみに今日は焼き鳥が食べたいので居酒屋でお願いします」

「おっけー」


 そう言いながら手を繋ごうとして来る手を思い切り払った。


「触らないでください。調子に乗るな」


 私が目をガン開きで牽制すると苦笑いしている。

 ほんの少し踏み込むことを許すとすぐにこうなるのだから、油断も隙も無い。
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