初恋が始まるとき。
「…帰したくないって言えば?」


 私の発言に少し目を見開いた後、楽しそうに目を細める。


「言ったら俺に流されてくれる?」

「…考えなくも、ないです」

「なあ、俺が帰したくないって言ったら、逃げられなくなるのわかってて煽ってんの?」


 そう言いながら私の髪を耳に掛け、渋谷さんの細い指が私の耳を掠めた。

 そんな少し触れただけでも触れられた部分が熱い。

 これほどこの人に対して嫌悪感を感じずに触れられているのに、まだ私はこの人を好きじゃないと言い張っている。

 私もこの人が遊びじゃなくて本気で私に向き合ってくれていると思える確約が出来るまで認めたくないのだ。

 初恋を悲しい思い出にさせたくない。
 だから私はまだ渋谷さんが初恋だと認めたくない。

 色々な気持ちがせめぎ合って、なかなか素直になれない私は本当に面倒な性格をしていると思う。

 渋谷さんが私を好きだと認めて求めてくれたら、私だってその気であなたを本気で求められるのに大事な言葉をくれないから。

 あなたと駆け引きをすればするほど、どんどん面倒な女になる。

 渋谷さんの問いには答えられないまま見つめていると、クスッと笑みを零す彼。


「無言は肯定、でいい?同意無しで犯すとかしたくないから」


 私にはもやもや悩ませるくせに、あなたばかり答えを得て本当にずるい。
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