初恋が始まるとき。
 結局、私の返事を聞く前にそのまま家に連れていかれ、マンションの前に着いたところでほんの少しの抵抗を見せた。

 流されて本当にこんな所までくるなんて、気付かぬうちに酔っていたのだろうか。

 正気に戻って帰ろうとしたのだけど返してなんてもらえなくて、渋谷さんは家の中に私を押し込む。


「ちょ、やっぱ盛り上がりすぎました!帰ります!」

「忠告はしたろ。いい年した大人なんだから言葉に責任を持つものだよ~」

「まだうんともすんとも答えてないんだが!!!!」


 結愛さん、高校時代からこの男こんなんですか?

 こうなれば駆け引きも何もない。ただただ強引さで連れて来られただけだ。

 びくびくしながら渋谷さんの家の中に入ると、中は綺麗に整理されていて黒を基調としたシンプルな部屋だった。


「…広い、ですね?」

「うちの母さんのマンション」

「お、お母さん?」


 マンションを持っているお母様って、渋谷さんの家かなり裕福なのでは、と想像し怯えていると渋谷さんは私の言いたい事を察したのか少し笑っていた。


「昔、母さんは夜職やっててさ」

「夜職?」

「そう。その時にかなり売れてたらしくて、買ったマンションらしい」

「なるほど。すごいですね。マンション買えるくらい成功してるって」

「すごいよな。俺には想像もつかねぇけど」


 そう言いながらスーツのジャケットを脱いでハンガーに掛けると私にもハンガーを渡す。


「掛けたら?上着とか」

「あ、ありがとうございます」


 ハンガーを受け取り私も上着を、ハンガーラックに掛けた。
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