初恋が始まるとき。
 そうしてからソファに座り、そわそわと落ち着かない気持ちでいると、渋谷さんは隣に座り距離はかなり近くなる。

 軽く身を引いて渋谷さんを見ると長い睫毛の奥の瞳からこちらを見ていて、もしかしたら本当にこのままと覚悟をした。いくら男性経験のない私にも、男性の家に上がり込んで何もされないわけないと理解している。

 少し見つめ合い額を合わせると渋谷さんは私の頬を大きな手で包み込む。


「…すげぇ緊張してるの伝わる」

「そ、りゃ、あなたみたいに慣れてないですから」

「俺だってこんな緊張してるの初めて」

「嘘吐き。いつも女性をこんな風に連れ込んでるくせに」

「家に誰かを連れてくるのは初めてだよ」


 そう言って私の頬から手を離す。

 こんな人から感じる甘さが私にはまだ慣れなち。チョコレートみたいにいつか溶けて無くなるんじゃないかなんて、そんな虚しさも感じてどこか悲しくすらなった。


「…何その顔」


 渋谷さんに問いかけられ首を横に振る。

 なくなる、なんて、まだ私は手に掴んですらいないのにそもそもそんな心配をすることがおかしい。

 掴んでいたいなら勇気を出せばいいのに、掴んでしまったら壊れそうだとか、またそんな心配から先に進めない、いつまで経っても臆病な私。

 この人だって先に進もうとはしないのだから、いっそのことこのままの方がいいのではないかと思った。
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