初恋が始まるとき。
 溜息を吐くと、着替えとバスタオルを持った渋谷さんが別室から戻ってくる。それをそのまま私に渡してくる。


「着替えはこれ使って。てか、コンビニ行く?徒歩5分くらいの所にあるし、ある程度の必要な物は揃うんじゃん?」

「ああ、じゃあちょっと行ってきます」

「何で?一緒に行くよ」

「え、近いんですよね?1人で行ってきます」

「いいよ。5分とはいえ、危ないから一緒に行こ。てか家に連れ帰る事しか考えてなくて忘れてたわ、いろいろ」


 何だこの人、と言いたかった言葉は飲み込み外に出る準備をする。

 本当にこの人の家に泊まるのか私。

 紬さんに協力してもらって、両親に嘘を吐いて、渋谷さんの服を借りて、そこまでしてようやく実感がわいてきた様な気がする。

 2人で家を出て、人1人分も無いくらいの距離感で隣を歩いて、街灯に照らされて出来ている自分の影と渋谷さんの影を見つめていた。

 普段はどうでもいい事をいくらでも話せるのに、今は驚く程静かで2人の靴が地面を蹴る音のみが耳まで届く。それが意外と心地よくて嫌な気はしない。

 渋谷さんがあまり黙る事もないから、ほんの少し違和感を感じるけれど、無理をしていないという点では2人の距離感が少しだけ縮まったような気がした。
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