初恋が始まるとき。
「渋谷さんおつり」


 そう言いながら隣に立つ渋谷さんに硬貨を渡しながら「ありがとうございます」とお礼を言うと、渋谷さんは少し笑って私から硬貨を受け取る。


「貰っといてもいいよ」

「さすがにそれは」

「それでこの後の休憩時間全部貰うから」

「勝手に決めないでください。てか、お金で買うな」


 私のツッコミに笑いながら一緒に空いているテーブルに向かう。渋谷さんは唐揚げ定食を頼んでいて、おぼんをテーブルの上に置いて私の向かいに座った。

 私も席に着きお互いに食べ始めると、ここ最近の話をしはじめた。


「最近マジで忙しそうだな経理」

「決算が終わったんでまだマシなんですけどね。決算が終わってもやる事山積みで…。ここ最近は残業で死んでます」

「経理課ってお母さん多いから残業NGの人多くなかった?」

「そうなんです。かと言え、人もそこまで足りてるわけでもなく、私みたいな独り身がやるしかない訳ですよ」


 そう言いながら溜息を吐くと渋谷さんは食事に手を付けるでもなく私の話を聞いている。


「食べていいですよ。冷めます」

「俺食うの早いから大丈夫」

「そう言う問題ですか?」


 何が大丈夫かは分からないが大丈夫と言われ思わずツッコんでしまった。

 ラーメンを音を立てて食べない様に少しずつ箸で掴みながら食べる。時折おりてくる髪が鬱陶しい。その髪を耳にかけ、再度ラーメンに集中する。
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