初恋が始まるとき。
「俺も最近は忙しいんだよなあ」

「まあ、四月って何かとね」

「そうそう、今年は新人の教育係にも抜擢されてさ」

「ああ、それで…」


 本田さんが私の元に来た理由も納得できた。渋谷さんが忙しいのもあっただろうけれど、単純に教育の一環で私の元に寄越したのだと思う。

 納得は出来たけれど、それでも今の私にはあの毎朝の当たり前が恋しかった。前までは毎日私の元に来るなと思っていたのに、今じゃそれを手放せなくなるなんて思っていなかった。

 当たり前のことが突然なくなってしまうのがこんなにも寂しいと感じるなんて知らなかった。

 そんな気持ちを悟られないように黙って昼食を食べ進め、余計な事を話してバレないようにした。


「明るくて可愛らしい方ですよね。少し話してみましたけれど」

「そうだなあ。フレッシュって感じするわ」

「何か老けましたね渋谷さん」

「まだ25なんだけど」


 新人を見てフレッシュって感想が出てくるのは枯れた大人の証拠な気がする。とはいえ、私もまだ24だけれど、本田さんほどの将来への期待とか爽やかさとか、そんなものはとっくに失われていた気がする。

 月々、日々ほぼ同じことをして、同じように過ごして、変わった事も無くて、かといえ今の現状に不満がある訳でもなく、良くも悪くも変わらない毎日だ。
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