野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)
大(おお)尼君(あまぎみ)には紀伊(き)の守(かみ)という役職の孫がいる。
ちょうど任期(にんき)が終わり、紀伊(き)の国(くに)から都に戻ったので、祖母君(そぼぎみ)に挨拶(あいさつ)にやって来た。
下級貴族だけれど人生を楽しんでいそうな雰囲気の人よ。
「私が紀伊の国におりました間、いかがお過ごしでしたか」
と大尼君にお尋ねする。

でも話が通じないから、伯母(おば)にあたる尼君(あまぎみ)の部屋に来て言った。
「祖母君(そぼぎみ)はすっかり呆(ぼ)けてしまわれましたね。お気の毒に。もう少し早く、まだ私が誰かお分かりになるうちに孝行(こうこう)したかったのですが。遠い紀伊の国にいたことが悔(く)やまれます。私も妹も、両親を亡くしてからは、あの祖母君を親代わりと思っておりました。妹はときどきお手紙を寄(よ)越(こ)していますか」

「もうずいぶんなお年ですからね。長生きなさるとお気の毒なことも増えるものです。あなたの妹君(いもうとぎみ)は常陸(ひたち)の守(かみ)の奥様でしたか。ここしばらくお手紙はありません。常陸の守の任期が終わって都に戻ったころには、きっと大尼君はお亡くなりになっているでしょうね」
浮舟(うきふね)の君(きみ)は「常陸の守」という言葉にはっとした。
継父(ままちち)の次に常陸の守になった人のことだと分かっていても、どうしても反応してしまう。
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