地味なカフェ店員ですが一夜の相手が社長で溺愛されています
「大学の時、バイト先がコーヒーショップだったんですよ」

「そうなんですか」

意外だった。

スーツ姿で、どこか近寄りがたい雰囲気なのに。

そんな過去があるなんて。

「基本は同じです。詰まりは、焦らず崩した方がいい」

そう言いながら、器用に豆を取り除いていく。

その横で、私はただ見ていることしかできない。

こんなに近くに、人がいるのは久しぶりで。

しかも。お客様で。あの御門さんで。

意識しない方が無理だった。

ふと、彼の腕が少しだけ私の袖に触れた。

それだけで、びくりと体が反応する。

「……すみません」

思わず小さく謝ると、彼は手を止めずに言った。

「いえ。こちらこそ」

声は変わらず、穏やかで。

まるで何も気にしていないようだった。

その落ち着きが、余計に意識をさせる。

やがて、最後の塊が、ぽろりと外れた。
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