地味なカフェ店員ですが一夜の相手が社長で溺愛されています
「……あの」

声を出そうとしたとき。

背後から、そっと腕が回される。

強引ではないのに、逃げられない。

「少しだけ、このままで」

耳元で囁かれる。

御門さんは、わずかに距離を詰めたまま、静かに言った。

「……あなたと、二人きりになれる機会を、探していました」

その言葉に、胸が大きく揺れる。

「御門さん……」

「閉店間際に来ていたのも、そのためです。仕事帰りに、お誘いできるかと」

穏やかな口調なのに、逃げ場がない。

そっと顔を向けると、唇が触れた。

ほろ苦いコーヒーの香りが、静かに広がる。

「……嫌でしたら、ここでやめます」

問いかける声は、あくまで優しい。

けれど私は、なぜか首を横に振っていた。

「私も……同じ気持ちです」

言葉にした瞬間、もう戻れない気がした。

御門さんは小さく息をついて、私の手を取る。
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