地味なカフェ店員ですが一夜の相手が社長で溺愛されています
翌日も、閉店が近づくころ。

扉のベルが鳴った瞬間、なぜか顔を上げてしまった。

そこにいたのは、やっぱり――あの人だった。

背の高いスーツ姿。

静かな足取りでカウンターに近づいてくる。

「いらっしゃいませ」

いつも通りの言葉のはずなのに、少しだけ緊張する。

「ブラックですよね」

口にしてから、ほんの少しだけ間が空いた。

覚えていてよかったのか、それとも出過ぎたことだったのか。

一瞬迷ったけれど。

彼は、穏やかに頷いた。

「ああ、覚えてくれてたんですか?」

「はい」

短く答えると、彼の視線がわずかに柔らぐ。

それだけで、胸の奥が静かに揺れた。

私はすぐにコーヒーマシーンに手を伸ばす。

慣れた動きでボタンを押す。

――はずだったのに。

カチ、と乾いた音がしただけで、何も起きない。
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