無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中


「リオ君ただいま。今日もクタクタだしもう眠いんだけど、これから予習しなきゃいけないんだ。生徒会資料だって訂正なんだよ? あんまりだよね?」


ぬいぐるみを撫でながらこんなに語ってしまうなんて端からみたら異様なのかな。 


でも私にとっては家族にその日にあったことを報告したり、友達に愚痴を聞いてもらうみたいな感覚なの。ChatGPTみたいに返事は返ってこないんだけどそこは特に問題じゃないし。


ぱぱっとお風呂もすませてさっぱりして、この辺でスマホを手にごろごろしたいところだけれどそうしたら二度と立ち上がれないのはわかっている。


眠くて眠くて時々ふらついて何回かおでこをぶつけてしまったけれど、予習と訂正をどうにかクリアしてやっとリオ君を手にベッドに倒れ込んだ。


「碧葉家の方針で連れてはいけないけど私たちはずっと家族だよ」


ベッドのうえで丸くなりリオ君を抱きしめる。
他人からみればただのぬいぐるみでも私にとっては大事な宝物なのに、碧葉家に古いものを持ち込むのは禁止なんだって。


じゃあ一緒にいられるのがあと一年くらい?
そう思ったら悲しくなって、こぼれた涙をリオ君が吸い込まないよう、顔を遠ざけて鼻をすすった。


はぁ。少し寒くなってきたな。
そういえば髪が濡れたままだった。
こんな時間にお手伝いさんを頼るのも悪いし……でももう動けそうにない。
体はベッドに深々と沈んで……何もかも放り出してただ眠りたい。


「今日はもう寝ちゃおう」


ぽつり呟く。
リオ君を抱きしめてその匂いに癒されていたら、うっかり目を閉じてしまった。


「おやすみ。何も気にしないで寝ていいよ」


男の子の声にびっくりして顔を上げると、いつの間にか私の腕をすり抜けていたリオ君が、ドライヤーを引っぱりながらこっちに歩いてくるところだった。


「……も、もう夢の中?」


それは独り言になるはずだったのに。


「驚かせてごめん。でも俺は羽奈を幸せにするためにここにいるんだから、できることがあったら何でも言ってよ」


重そうなドライヤーと格闘しているリオ君。


「おしゃべり機能が付いてたなんて……スイッチをうっかり押しちゃったんだ?」


「いや、どう見たってこの体は綿100%だろ」


やっぱり返事が返ってくる!


「じゃあなんでおしゃべりができるの?」


「いいから先に寝てろって。すぐそっちに戻るから」


背中まである髪がドライヤーの温かい風に煽られると頭のなかが一瞬無になった。


「はぁ、あったかい……」


寒さとモヤモヤが飛んでいく。
晴天の空をふわふわと泳いでいる気分。
ほんとにもう、何も考えなくていい?
そのまま吸い込まれるように、眠りに落ちてしまった。


< 2 / 120 >

この作品をシェア

pagetop