無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中
「なんか腹立つ顔」
「写真だけで判断しちゃダメだよ」
「いや。嫌い」
癒し系なはずなのに、キュートなお顔でそんな直球の毒を吐くなんて思わなかった。
「羽奈だって実は苦手なんだろ?」
「そっ、そんなことないよ。釣り合わないなって思ってるだけ。それに結婚したらずっと一緒なわけでしょ? だから今は少しでも多くこの部屋でリオ君と過ごしたいの」
いつも頑張っているのは今みたいな時間が少しでもほしいからなんだよ?
「じゃあそいつのことをよく知らないまま結婚するつもりだったの?」
まさかのリオ君の大人発言に少し尻込みした。
そうか、碧葉君だってきっといろんな努力をしてくれているはず。
そんなこと、全然気づいてなかった。
「そうだね、逃げてばかりじゃダメだよね。でも私女の子ともろくに話せないんだよ? 話し相手がリオ君しかいないなんて知ったら失望されるんじゃないかな」
「その程度で羽奈のことを嫌いになる男ならこっちから願い下げじゃん。羽奈には俺だけいればよくない?」
「……リオ君てすごいこと言うんだね」
碧葉家にたてつく発言なんて学園の誰からも聞いたことがない。
「羽奈には好きなやついないの?」
「うん、たぶん」
ちょっとだけ頭の片隅にひっかかっている男の子がいるけど、記憶も定かじゃない幼い頃のことだし、どちらかというと笑っちゃうような苦い記憶だ。
だからそういうのとは違うと思うし、恋を知らなくても結婚生活は始められるものなんだって。
「じゃあこれからは俺がいつも一緒にいるから。楽しませるし」
そう言ってもう鞄のなかに入ろうとしてる!
「何言ってるの、それはダメ! だってリオ君はこの家から出たことないでしょう? 学園は私物持ち込み禁止だから見つかったら取り上げられちゃうし、失くしたりしたら……」
「そんなに俺が大事?」
「そんな言葉じゃ収まりきれないよ!」
「へぇ、そこは素直に断言できるんだ?」
慌てて捲し立てたらリオ君は嬉しそうに笑ってみせた。
「ほら、めっちゃいい天気。早く外の空気吸いに行こーぜ」
リオ君を抱いて窓を開けると秋の爽やかな風が髪を揺らし、お気に入りのシャンプーとどこからか金木犀の匂いがした。
でも落としたらどうしよう……ってまた心配性の自分が頭をもたげる。
リオ君はそれに気づいてくれたのか、明るく笑ってこう言ってくれた。
「大丈夫。誰に拾われたってどこに捨てられたって羽奈んとこに戻ってくるから。その辺のぬいぐるみと同じじゃないんだから心配すんなって。信じてよ」
たまに出る真面目な言葉は胸にじーんと響く。感動でもう泣きそう。
「どうした?」
「ううん、じゃあリオ君を信じる」
失くしたり汚したり、他人に触れられるのも嫌でずっと箱入り息子だったけど、きっと大丈夫。
よし、決めた!
「リオ君、学校に行くなら部屋着はダメです。制服を着ましょう!」
リオ君の服は、自作のものと特別に作ってもらったものとが何十着とある。
部屋着のTシャツの上に迷わずうちの制服を着せて、靴下も靴も学園指定のスケール違いで作ってもらったものを身に付けさせた。