無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中
ピンチでしかない1日
私の登下校用のためだけに用意された車が、今日はリオ君を乗せて走っているんだと思ったらドキドキしてきた。
見慣れた銀杏並木はいつもよりまぶしく、山吹色の葉はきらめいて見える。
鳥たちが高らかに歌い、眼下に広がる町並みは朝の光に染まり青空は手が届くほどに近くて……。
なんて詩人きどりになってしまうのはリオ君とおでかけという事実に心が浮き足立っている証拠。このままピクニックに行きたい!
でも気を抜いちゃダメ。
カバンに入れることができず制服の中に隠したリオ君をぎゅっと掴んだ。
高台にある学園の正門をくぐるともう何台もの車が並んでいて、中から続々とご学友が降り立っている。
私もみぞおちの辺りに腕を添え、リオ君を落とさないよう細心の注意を払いながら車を降りた。
リオ君にはしゃべらないよう口酸っぱく言ってあるからきっと大丈夫。
上質なカーペットの上を歩き進めた先の玄関ホールには大きなフラワーアレンジメントがあって、その奥が昇降口。
というよりはほとんどホテルのロビーみたいな造り。その正面口にはエレベーターホールとエスカレーターがあるんだけど、今日はそれを無視した。
私のクラスは4階だけど、まっすぐ階段へと向かう。
だって階段を利用する生徒なんてほとんどいないから。
4階に着くと、先生方やご学友といつも通り簡単な挨拶だけをすませた。
いつも以上に声をかけないでオーラを強く発しながら、無事自分の席まで辿り着くことができたけれど、問題はここから。
資料を碧葉君に渡さなくちゃ。
彼に興味津々なリオ君がぼろを出さないといいけど……。
碧葉君は相手が誰であろうと何であろうと風紀を乱すことは許さないと思う。
無慈悲に私物を奪い去ることで有名な冷徹な生徒会長だ。
とにかくこれさえ渡してしまえば今日のミッションは遂行したも同然なんだから、昼休みは秘密の場所をみつけてリオ君といっぱいおしゃべりしよう。
すごくわくわくしてきた!
でもタブレットの電源を入れようとカバーを開いたら、画面に地割れのようなヒビが入っていた。
そういえば今朝、リオ君をキャッチしようとして落としたタブレットの上を見事に踏みつけたような気がする。
心拍が上がったのを察したのか、制服の中のリオ君と目があった。
何か言いたげにふて腐れていて今にも飛び出そうだったから、慌てていちばん遠くのパウダールームへと向かかった。
「そういうのはダメって言ったばかりでしょ!」
「まだなんもしゃべってないじゃん」
リオ君は子供みたいに口をへの字に曲げてから、続けざまにこう言った。