敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
蒼玄は、私の手を取った。

大きく、逃げ場のない手。

そのまま引かれるように、私は立ち上がる。

「さあ、行くぞ」

低く命じられ、足がすくんだ。

(……あ……)

理解している。

この先に待っているものを。

けれど、体は正直だった。小さく震えが走る。

男性との睦み事など――初めてのこと。

それを、こんな形で。しかも――

(父上の前で……)

視線を上げることができない。

父の気配がすぐそばにあるのに、振り返ることすら許されない。

「歩けるか」

静かな声。試すような響き。

「は、はい……」

かすれた声で答える。一歩、踏み出す。

床の冷たさが、足の裏から伝わってくる。

また一歩。
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