敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
静かに置かれているだけなのに、その意味はあまりにも明白だった。

(……あ……)

体の奥が、ひやりと冷える。

逃げ場はない。これは、人質としての役目。

分かっていたはずなのに。

現実として突きつけられた瞬間、全身が小さく震えた。

「姫が人質として来ると聞いて、家臣が用意したものだ」

淡々とした声。そこに、感情はない。

ただ事実を告げているだけ。

「どうした」

不意に、蒼玄の指が私の顎に触れる。

軽く持ち上げられ、再び視線が合う。

逃げられない。

「もう子供ではあるまい」

低く、静かに。

「意味は分かっているな」

その言葉に、喉が詰まる。

けれど――ここで目を逸らすわけにはいかない。

私は、唇を噛みしめた。

そして、震える声を押し出す。

「……はい」

それは、覚悟の返事。
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