敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
だが足は思うように動かない。震えが止まらない。

「……手間のかかる姫だ」

低く呟かれたその瞬間、ふわりと、体が浮いた。

「……っ」

気づいた時には、蒼玄の腕の中にいた。

強く、しかし乱暴ではない抱き方。

逃げる余地は、どこにもない。

「皆の者、席を外せ」

短い命令。

それだけで、周囲の気配が一斉に動いた。

足音が遠ざかる。

誰もが、この先に起こることを知っている。

それでも、誰一人として言葉を発する者はいない。

静寂が落ちる。

その中で、私はただ蒼玄の腕に抱かれたまま。

心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。

やがて、隣の部屋へと運ばれる。

視界の先に、あの寝台が見えた。
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