敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
その時。隣の部屋から、かすかな声が聞こえた。

「……皇帝は、まだ孟の姫に夢中でいらっしゃるのか」

「朝から離さぬらしい」

小さな囁き。けれど、それは確かに耳に届いた。

(……そんな……)

胸が、わずかにざわめく。

すると――

「聞こえたか」

蒼玄が、私の耳元で低く囁いた。

「皆、おまえの美貌を誉めていた」

その声は、どこか愉しげで。指が、頬をなぞる。

「その姫が、今……」

さらに引き寄せられる。逃げ場を奪うように。

「俺の腕の中にいる」

息が、詰まる。

視線も、体も、すべて絡め取られる。

「蒼玄……」

名前を呼ぶと、すぐに応えが返る。

「玲華」

重ねられる声。その距離が、あまりにも近い。
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