敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
広間の空気が、わずかに張り詰める。

「敵国に嫁ぐなど……どれほどの心情か」

その問いに、一瞬、息が止まる。

だが――逃げることは、しない。

私は扉を開き、静かに歩き出した。

父の前を通り過ぎる。視線は、交わさない。

今、向き合うべきは――この人だ。

「玲華……」

名前を呼ばれる。その響きに、胸が揺れる。

私はまっすぐに蒼玄を見つめた。

そして、ゆっくりと口を開く。

「……私は」

一度、息を整える。

震えそうになる声を、押さえ込む。

「あなたに抱かれた時から……あなたしか、いないと思いました」

言い切った瞬間、広間が静まり返る。

もう、後戻りはできない。

けれど、不思議と怖くはなかった。

この人の腕の中で感じた温もり。
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