敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
あの時間だけは、嘘ではなかったから。

すると――蒼玄の口元が、わずかに歪む。

「……くく」

低く、押し殺した笑い。その目が、深く細められる。

「だったら」

一歩、近づいてくる。逃げる余地など、与えない距離。

「俺の妃になればいい」

そのまま、強く引き寄せられる。

腕の中に閉じ込められる感覚。

「……っ」

息が詰まる。けれど、もう抗わない。

「一生、放してはやらぬぞ」

低く、耳元で囁かれる。それは優しさではなく――確かな、執着。

私は目を閉じた。そして、小さく笑う。

「……望むところです」

その言葉に、蒼玄の腕が、さらに強くなった。

まるで、本当に。

二度と離すつもりなどないかのように。
< 22 / 30 >

この作品をシェア

pagetop