敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
翌朝。私は、白い衣をまとっていた。

一切の装飾を削ぎ落とした、ただの白。

それは、私の意思を示す色。

――この身は、国のために差し出す。

鏡に映る自分は、まるで別人のようだった。

昨日まで城で剣を握っていた姫ではなく、ただ静かに運命を受け入れた“人質”。

「姫様……」

侍女の声が震える。私は小さく微笑んだ。

「泣かないで。これは、私が選んだ道よ」

それ以上の言葉は必要なかった。

やがて、私は輿に乗せられる。

外の空気は冷たく、静まり返っていた。

敗戦の国の姫を見送るには、あまりにも静かすぎる朝。

輿がゆっくりと進み出す。

揺れに身を任せながら、私は目を閉じた。

(これでいい)

もう、振り返らない。

――そう決めたはずなのに。
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