敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
ほんの一瞬だけ、胸の奥が軋んだ。

けれど、それもすぐに押し込める。

私は、孟の姫。弱さを見せることは、許されない。

やがて輿は止まり、外から声がかかった。

「孟の人質が到着いたしました!」

ざわめきが広がる。

私は静かに目を開けた。

そして、ゆっくりと輿から降りる。

視線が一斉に突き刺さる。

敵国の兵、家臣、そして――その奥に座る男。

信の皇帝。私は父の隣に進み、膝を折った。

玉座の間は、張り詰めた空気に包まれている。

だがその中で、囁きが漏れた。

「……おお、さすがは一国の姫君。威厳が違う」

「あの美しさ……孟は美人の国と聞いていたが、あれほどとは」

隠しきれない感嘆。

それでも私は、一切揺れなかった。

ゆっくりと顔を上げる。
< 5 / 30 >

この作品をシェア

pagetop