敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
そして――真正面から、皇帝を見据えた。

その瞬間、空気が変わる。

鋭く、冷たいはずの視線。

なのに、なぜか――熱を帯びていた。

(この方が……)

この国を落とした男。

この先、私の運命を握る男。

それでも私は、目を逸らさなかった。

逃げないと決めたから。

「人質として参りました」

静かに、言葉を紡ぐ。声は、驚くほどよく通った。

「孟国第一姫、玲華にございます」

頭を垂れる。けれどその背は、決して折らない。

その瞬間――誰もが息を呑んだ気配がした。

まるで、値踏みするように。

あるいは――見定めるように。

玉座の上から注がれる視線が、私を捉えて離さない。

逃げ場はない。だが、不思議と恐怖はなかった。

ただひとつ。強く、確かに感じるものがあった。
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