家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています
 彼は百八十センチ以上ありそうなほど、背が高い。

 グレーのスーツに赤のネクタイを締めており、朝のホテルという状況なのに、身支度はしっかり整っている。

 切れ長の目元に、スマートな頬のラインを持つ顔立ちだ。

 黒髪は硬めにセットしてあり、どう見てもこれから仕事へ行くという雰囲気だ。

 きっと先に起きて、洗面所で身支度をしていたのだろう。

「昨日はありがとう」

 ちょっと緊張してしまった明莉の元へ、彼はゆっくりと近付いてきた。

 そしてお礼を言われるので、明莉は恥ずかしくなってしまう。

 昨夜にあったことを思い出したら当然だ。

 鬱屈と酔いから彼と一夜の恋を過ごしてしまった、なんて状況なのだから。

「いえ……私も支度して、そろそろ帰りますね。ホテル代、半分……」

 彼も仕事へ行くようだし、これ以上長引かせても意味がない。

 そっと布団を抜け出して、端に腰掛けた。

 それで律儀だがそう言いかけたのだが、そこで彼が言葉を遮った。

「……覚えていないのか?」

 少し目を見張られる。

 意外だ、と言いたげな様子なので、明莉は不思議に思った。

「え?」

 変な声が出てしまった。
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