恋愛はめんどくさい!

 二人で商店街の端にあるベンチに座った。
 やけどに気をつけながら、一口食べてみる。

「……おいしい」

 思わず声が漏れた。
 油がいいのか、衣はサクッとしているし、じゃがいもの甘みも香りもちゃんとある。たしかに、これは人に勧めたくなる味だ。

 先輩は嬉しそうに笑う。

「でしょう。初めて食べたときは、ほんとに『見つけた!』って感じがしたよ」

 その声を聞いた途端、私の胸は高鳴る。
 こんな、なんてことのない日常の出来事が、とても貴重な時間のように思えた。

「……大沼さん」

 先輩が、少し真剣な声で私の名前を呼ぶ。私はコロッケを持ったまま、顔を上げた。

「ちゃんと言ってなかったけど、やっぱり……僕は大沼さんのこと、好きです」

 秋の夕方の、少し冷たい風を感じた。
 両手に持ったままのコロッケが温かい。
 商店街のざわめきが、遠くから聞こえている。

 頭の中が真っ白になった。思考が回らなかった。だけど、何か言わなければ、と思った。

「……ありがとう」

 口から出た言葉は、それだけだった。本当はもっといろいろな感情があるはずなのに、言葉が出なかった。
 本当に、本当に……言葉が出なかった。

 先輩は静かに、いつものように優しく笑っている。

「……うん」

 嬉しそうな顔。
 だけど、ほんの一瞬だけ、先輩の表情が曇ったような気がした。
 気のせいかもしれないけど、なんとなくそんな感じがした。

 それからしばらくは、何も話をしなかった。二人とも食べ終えるまで、無言だった。


「じゃあ、そろそろ行こうか」
「……はい」

 コロッケを食べ終えた私たちは、駅へ向かって歩き出した。

 帰り道の商店街は、来た時よりもだいぶ賑やかに見えた。

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