皇命婚と告げた運命の伴侶に恋情を贈る
「では、名前を呼んでいただいてもいいですか?」


私の願い事に紫色の目を見張る。


「俺に呼ばれるのは嫌なのかと思っていた……いいのか?」


「どうしてですか?」


彼曰く、ほぼ無理強いに近い政略結婚なのでせめて婚姻がすむまでは適度な距離を保つべきかと遠慮していたらしい。


「そんな風に考えていません。呼んでいただけたら嬉しいです」


「……キラナ」


早口で否定したところ、少しだけ視線を下に向けつつ、つぶやくように口にする。

初めて呼ばれた名前はほかの誰よりも特別な響きを帯びて、私の心の奥底にゆっくり落ちてそっと根付く。

泣きたいくらいの切なさが胸に押し寄せて、心が甘く痛む。


「キラナ?」


黙ったままの私を不思議に思ったのか、もう一度呼ばれ、くすぐったさと切なさを響かせて返答する。


「……はい、アレン様」


眦を下げた彼と目が合った瞬間、ここに転居してから初めて向き合えた気がした。


「長く話したが体は平気か? もし大丈夫ならなにか口にしてから庭園に行かないか」


「庭園、ですか? でも私は」


「メアリから事情は聞いたが、もう一度キラナからも教えて欲しい。キラナの大切な秘密は絶対に守るし他言しない。キラナを守らせてくれ」


「……ありがとうございます」


握られた手から伝わる温もりと真摯な言葉に胸が詰まる。

改めて体質について詳細を説明した。

私に有効な薬はないのか、青ざめた顔で尋ねられて、母の薬の存在を明かす。

すると明らかにホッとして厳重な保管方法を考えようと約束してくれた。

そして薬の没収時に隠していた件を謝ったところ、当然の対応だし自分が悪いのだから謝る必要はないと言われ、逆に謝罪された。
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