皇命婚と告げた運命の伴侶に恋情を贈る
「父様、母様、ただいま」


自宅に到着し、荷物を片づけて店に足を踏み入れる。

外套を脱いで、玄関前のフックにかける。

魔法をとき、ブーツを脱いで踵の低い室内履きに履き替えて、洗面所で手を洗う。

鏡に映る見慣れた銀髪を見つめながら夕食を準備しなければと考える。

一階の店舗と自宅をつなぐ扉の施錠を念のため確認して、二階の自室に向かう。

この家には母との思い出が色濃く残っている。

ふたりだけの生活は大変なときも多かったが、安心できたし楽しかった。

十八歳で成人を迎えたときはトルン医師夫妻を招き祝った。

夫妻には今も本当にお世話になっている。

旧知の仲、親友の忘れ形見とはいえ手厚すぎる協力に、私は医師と縁者なのではないかと周囲から邪推されたこともあった。

そのせいもあり、母は薬局の開店を急ぎ、ふたりきりの生活基盤を整えようと躍起になっていた。

開店当初は利用客がほとんどいなかったが、母の高い技術と親切で温かな人柄に惹かれ、少しずつ足を運んでもらえるようになった。

今では多くの人が母の調合による薬や薬湯類を気に入ってくれている。

この国で薬師になるには一年に一度の薬師試験に合格しなければならない。

母の下で修行と勉学を重ね、合格したばかりの私の技術はまだまだ母のものに及ばない。
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