皇命婚と告げた運命の伴侶に恋情を贈る
答えられずにいる私に、目の前で屈み込んだ彼が質問を投げかける。


「先ほどまでの髪色と目の変化は魔術か?」


鋭く確認するような口調に小さくうなずく。

鼓動がさらに速まっていく。


「なぜ、あのとき逃げた? どうして今まで黙っていた? ……痣もあるんだろ?」


そう言って、長い指で私の左手をほどき、さらにリボンを取って右手首を見つめる。


「俺の目の色か……文献どおりだな。……君はメリハ族の直系だろ」


綺麗な目を細めてつぶやく声に血の気が引く。

いつの間にか口調がずいぶんくだけている。


「嘘をついても無駄だ。メリハ族に関する記述はあらかた調べた。あの砦付近に居住する女性たちの出自や噂もな。俺の読みは当たっていたな」


どうやら彼は最初から私に目星をつけていたらしい。

辺境伯夫人の並外れた薬師の力量と不自然なまでに娘の情報が少なかったことからも疑いを抱いたらしい。

長い時間をかけたのは、言い逃れできない証拠を見つけるためだったようだ。


「俺たちは、いわゆる〝運命の伴侶〟なのだろう?」


あの日とは違う淡々とした物言いに背筋に冷たい汗が流れる。


「ただの言い伝えです。必ずしも従う必要はないと母も申していました」


できるだけ平静を装って、過去の例などを説明する。


「――なるほど、だが俺たちは互いに独身で年齢差もそれほどない。色々まだ確認したい事柄がある。やっと会えたんだ。逃がす気はない。そもそもメリハ族は国の最重要保護対象だ」


「私をどうするつもり、ですか」


トゥーイッラ公爵家のメリハ族への噂が頭の中をよぎり、震える唇で尋ねる。


「まずは俺と婚姻してもらおうか」


苦々しげな物言いと氷のような冷たい眼差しに射貫かれながら、人生初めての求婚をされた。
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