皇命婚と告げた運命の伴侶に恋情を贈る
どこか傲慢にも聞こえる口ぶりだが、彼は信用できる気がした。

本来ならミクス皇太子殿下のように表向きの事実だけを伝え、貴族社会にありがちな権力で強制もできたのに、こうしてわざわざ時間をとって、説明してくれる姿に誠実さを感じた。


「俺たちの間に恋情など個人的な感情は存在しない」


甘い期待を持つなと言わんばかりに念押しされる。

運命の伴侶とは恋情が必ず育つ間柄なのかわからない。

両親のような愛と思いやりに満ちた関係を築けるか不明だけど、近い信頼関係を築ける可能性はある。

ならばせめて望みを託したいと思うのは間違いだろうか。

なによりトルン医師夫妻を助けたい。

これ以上迷惑はかけられないし、私に拒否権はないに等しい。

小さく息を吐いて膝の上に置いた指を強く握りしめる。


「……婚姻を了承します。どうぞよろしくお願いいたします」


「わかった。ミクス殿下に報告する」


平坦な声で返される。

ユリハ王女との縁談を避けられたとはいえ、私との婚姻などきっと望んでいなかっただろう。

偶然、砦で出会ったせいで巻き込まれ、変わってしまった己の運命を悔やんでいるに違いない。


一瞬よぎった恐れと寂しさに心が押しつぶされそうになり、自信を失いかける。

けれど、大事な人たちを守るためほかに最適な方法はないし、もう撤回できないと自分を鼓舞する。
< 65 / 163 >

この作品をシェア

pagetop