ラビット・ボンド
 意味不明なことを言っても、トラオは平気そうだった。どうやら聞き流されてるっぽい。
 
「おねーさんほんと面白いね」

「は!? なんにもおもしろくないんだけど!? ていうか全部トラオのせいだし!?」

 そうだそうだ。全部この男のせいだ。
 私は、文句の勢いそのままに、ぐいっと一気飲みしてグラスを空けた。
 
「でたでた。俺アンチ」

 アンチ、なんて口にしながら楽しそうなのは何なんだ。
 
 じとーっとにらむ私にお構いなく、トラオは自然な手つきで私のグラスにビールをついでくれる。はい、と渡されたグラスにはビールが並々に注がれてて心底おいしそうにみえた。
 流されるように、私はまたグラスを口に運ぶ。

「飲みっぷりよすぎ~。そりゃあ出来上がるわけだ」

 こ奴、デキる……!
 ずっと思ってたけど、酒の飲ませ方が抜群にうまい。それだけじゃなく、酔っぱらいをニコニコ見守れる。これはある種の才能だと思う。
 私のような酒癖悪子の強い味方かもしれない。

「おねーさんじゃなくて、リカ」
 
 ちょっとだけ見直した私は、名前を教えてあげることにした。
 
 りか、とトラオが呟く。すぐに理解したようだった。

「で、リカはなんでそんな荒れてんの?」

「ちょっと待って!? 呼び捨て!?」

「ダメだった?」

 トラオがきらきらした目で訴えてくる。なんでもかんでも許されてきたに違いない。
 許してたまるかコノヤロー! かわいい顔に……私は負けない!

「リ、カ、ちゃん! カモン!?」

「リ、カ、ちゃん……?」

「リ、カ、ちゃん! ヘイカモン!?」

「リ、カ、ちゃん!」

「よし!!」

 ふう、なんとか乗り切った。やっぱりコール&レスポンスは最強だ。
 
 トラオはゲラゲラ笑ってるけど、私は笑えなかった。思い出してしまったから。

 この男、美月ちゃんのことミミって呼び捨ててるんだよな……。
 
 共演者にそう呼ばれてるのをあんまり見たことがないのに。本当に仲良い同性の子くらいなのに。
 威勢よくコーレスしてたのがウソみたいに、私はしおしおとしぼんでいく。

「……ほんと、会いたくなかった」

 テーブルに置いてあったスマホを手に取る。ロックを解除すると、トラミミツーショ画面のままだった。
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