ラビット・ボンド
「なんか、よくわかんないけどさあ」

 ヘラヘラしたまま、トラオが喋り出した。
 分からんだろうと思うけど、実際に分からんと言われるとそれはそれでイラっとくる。

「別にその写真は――」

「待って待って待って! ストーップ!」

 急に立ち上がった私に驚いて、トラオが口をつぐむ。
 
 ギリ間に合った。危なかった。ほっと胸をなでおろす。
 
「何も言わないで。知りたくない。美月ちゃんが教えたいと思ったことだけ知りたい」

 イスに座りなおして、ビールを一口。
 少し間をおいて、私は口を開いた。

「美月ちゃんは、この前トラオとばったり会ったって教えてくれた。多分、公開一年記念だから、今日教えてくれた。それは想像だけど、それでいい。他のことは何も知りたくない」

「そんなに荒れてるのに?」

 トラオは、心底不思議そうだった。
 説明して楽にしてあげられるのに? みたいな、優しさだか哀れみだか分からないけど、そんな感じの表情だ。

 実際、ちょっと楽になってしまった自分がいる。慌てて止めたけど、間に合ったようで間に合ってなかった。
 さっきトラオが言いかけた言葉。“別に”って枕詞がついてるってことは、写真に深い意味合いはないんだと思う。
 ていうか実際付き合ってたりしてたらSNSに載せなさそうだし。

 ……多分。おそらく。きっと。

「そういうプレイだから!」

「は?」

 美月ちゃんのことで荒れるのは本望だと、ほとんど自分に言い聞かせてる。
 
 知りたくないのも本当だし、信念みたいなものだから大事にしたい。
 でも、楽になりたくないわけじゃない。聞いてしまえば、どう転んでも今より楽になれるのは分かってる。

 だけど、やっぱり知りたくない。
 
「そういうプレイを楽しんでんの!」

 ぽかーんとしてるトラオに、畳みかけるように言葉を続ける。
  
「わかった。邪魔しない」

 トラオは少しだけ眉にしわをよせて、やれやれ、みたいに笑った。
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