ラビット・ボンド
「あれ、トラオのグラス空じゃん。もしかして瓶空いた?」

 手に取った瓶ビールを確認する。私が愚痴をぶちまけてる間に二人で飲み切ったようだった。
 追加で頼んで、更に飲む。ぶっちゃけもう味は分かんないけど、酒が進む。

「悪口とビールって相性最高だと思うんだよねえ」

「うわ、最悪なこと言ってる」

 トラオも飲めるクチらしく、同じペースで飲んでくれた。デキる奴だから、合わせてくれてるのかもしれない。

「こんな荒れといてなんだけど、私さ、今幸せなんだ」

 ひとしきりブチまけたからか、私の情緒は緩やかに上昇していた。
 なんかこう、ぽわーんとしてる。

「ふーん? イイオトコと夜の海でビール飲んでるから?」

 トラオが口角をあげて言う。たいした自信だ。尊敬する。
 タメ息で返事して、言い直す。

「まちがえた。私、もうすぐ幸せになるんだ」

「なにそれ、結婚でもするの?」

 ん? と一瞬考えて、私は笑った。確かにそれっぽいセリフだ。
 
「ん~四捨五入したらそうかも。もうすぐねえ、美月ちゃんに会える」

「どんな四捨五入?」

「あっ、やっぱ芸能人観に行くとき“会う”って使うの怖い? 怖いよね? やめようやめようって思ってるけどつい言っちゃう。美月ちゃんも会えるねって言ってくれるから甘えちゃうんだよねえ」

「俺は全然……どっちかっていうと四捨五入の方が怖い」

 生の美月ちゃん、半年ぶりだ。考えるだけでニヤけてしまう。

「よし、カンパイだカンパイ!」

 トラオを促して、乾杯する。まだまだ全然飲み足りない。



 何度目かの乾杯を経た私は、すっかり楽しくなっていた。
 当然だけどトラオも人間で、普通に楽しくお喋りができる。普通、というか結構楽しい。
 
 特に、旅行にきてからのことは意外と共通の話題になった。
 あそこのコンビニにある謎ドリンクが美味しかったとか向こうのレストランの店員がめっちゃ怖いとかそんな他愛もない話。他愛もないけど誰かに言いたくて、でも一人で来たから誰にも言えなかった。

「なーんだトラオ普通に良いやつじゃーん」

 感覚を共有すると、人はそれだけで好感を持つ。知らんけど。
 ――もしくはトラオが魔術を使ったか。

「やっと気付いたー? 俺超良いやつよ」

「うっざ!」
 
 テーブルをパシパシ叩いてつっこむ。
 トラオもなかなか出来上がってて、酔っ払い二人してケラケラ笑った。

 そんな毒にも薬にもならない時間は、あっという間に過ぎたらしい。

「あんたたち、もう店閉めるんだけど」

 気のいいおばちゃんが、終わりを告げに来た。
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